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Diverse技術研究所

Dating Scienceについて

非対面コミュニケーションの可能性

「直接会って伝える」「電話で伝える」ことの重要性は、様々なメディアを通して多く語られてきました。同時に、非対面で行われるオンラインサービスやアプリをはじめとしたインターネット・コミュニケーションが、電話や対面に比べて劣ったコミュニケーションとして引き合いに出される場面は今でも多く見受けられます。しかしその根拠に関しては、盲目的である側面も否めません。

このインターネット・コミュニケーションをテーマに取り上げた研究論文をご紹介します。

論文題目:電子メディアによる情報伝達の研究 ―コミュニケーションにおける非言語的手がかりの役割―
著者:杉谷陽子 (SUGITANI, Yoko)
一橋大学大学院社会学研究科 2007年度博士論文

昔から社会心理学において、非言語的手がかりは、メッセージの意図を解釈する上で不可欠であるという考えが主張されてきました。そのため、非言語的手がかりが乏しいインターネット・コミュニケーションは、対面や電話などには劣る手段として位置づけられ、同レベルの意思疎通を行なうことが困難であると定義されてしまいがちです。

※非言語的手がかり・・・表情やジェスチャー、声の調子等

本研究において筆者はメッセージの内容を「道具的情報」と「感情的情報」に分類しました。送り手の意図通りに受け手がメッセージを理解し、そのメッセージの情報が両者で共有されている程度を「伝達度」と定義し、実験においてさまざまな指標を用いて、非言語的手がかりの有無が情報の伝達度に影響を与えるかを検討しました。その結果、非言語的手がかりは情報の伝達度を高めているとはいえない、という結論に至っています。

また、メッセージが伝わったことに関する主観的な感覚「伝達感」について実験し、インターネットの利用頻度に関わらず、非言語的手がかりが多い時に、送り手側の伝達感が高まる結果を示しました。メディア経験やオンラインゲーム経験に関わらず、対面的なコミュニケーションにおける伝達感への高い評価は、強固で持続的な信念によって支えられていることが分かっています。

次の実験では、視覚的手がかりの操作として、被験者を向かい合わせで座らせて通常の対面コミュニケーションを行なわせる条件(視覚的手がかりあり)と、衝立を挟んで座ってコミュニケーションを行う条件(視覚的手がかりなし)とを比較しました。

その結果、視覚的手がかりがある条件で、ない条件よりも伝達感が高くなりました。一方、伝達度についても分析を行なった結果、道具的情報の伝達では視覚的手がかりがあってもなくても同レベルでしたが、感情的情報の伝達においては、非言語的手がかりがない方がむしろ伝達度が高く、正確に意思が伝わっていたということです。 

感情的情報伝達度については、様々な実験を通し異なる結果が得られました。総合的な結果から、非言語的手がかりは、メッセージの伝達に全く影響力を持たないわけではないが、従来思われていたほどの重要性をもたないとしています。

道具的情報伝達度については、非言語的手がかりがあっても影響はない、という知見が得られたとしています。

伝達感については、研究間で一貫して、非言語的手がかりが多いメディア(対面・電話など)が、非言語的手がかりの少ないメディアよりも、伝達感が高く評価されました。

著者の杉谷氏は、送り手のメッセージの意図が聞き手に正確に伝達される上で、非言語的手がかりは従来の研究が指摘したほどの重要性を持っていない、ということを明らかにし”人は対面的コミュニケーションについて、自らの意図が相手に十分に伝わるという「幻想」を抱いており、それは視覚的手がかりによって規定されている”と新たな視点を主張しています。

研究まとめ

・非言語的手がかりは従来の研究が指摘したほどの重要性は持っておらず、場合によっては、非言語的手がかりがあることで、かえってメッセージの伝達が阻害される可能性もある。

・にもかかわらず、人は対面コミュニケーションであれば自分の言いたいことが相手に正確に伝わりやすいという幻想を抱いている。

・その幻想は、コミュニケーションの視覚的手がかりの有無によって規定されている。視覚的手がかりがあれば、人は「自分が発したメッセージが十分に相手に伝わった」あるいは「相手のメッセージが十分に伝わってきた」と感じる。逆に視覚的手がかりがないと、そのような感覚を持つことが出来ない。この感覚は、メッセージの内容が実際に相手に伝わったかどうかと無関連に生じている。


 一方で、対人場面での感情情報伝達度合いと、メッセージアプリ(LINE)を利用した感情情報の伝達度合いを比較した研究もあります。

論文題目:対人場面における感情情報の伝達誤差 −感情伝達に対する情報濾過機能の検証−
著者:原邊 祥弘(Yoshihiro Harabe)
人間科学部研究年報 平成27年(2015年)

本研究では、対面状態(FTF)とLINEでのやり取り(CMC※)を比較して実験を行いました。

※FTF・・・Face-to-Face、以下 FTF
※CMC・・・Computer-Mediated-Communication、以下CMC

まず行った実験では、発信側と受信側の伝達度合いの認識について検討しました。FTF条件・CMC条件で話し手側・聞き手側が認識する感情伝達度合いの総量に対し、話し手側・聞き手側の「役割」とFTF条件・CMC条件の「コミュニケ―ションの違い」における効果を検証するため、2要因の分散分析を行いました。

その結果、交互作用が有意となり、FTF条件では「話し手側が認識している発信量」よりも、非言語的手がかりがあることにより、聞き手側が認識する「話し手側から発信されたと考えられている情報量」のほうが多いが、CMC条件では、話し手側・聞き手側の双方で「話し手側から発信される情報量」が少なくなるということが分かりました。更には、CMC条件では話し手側より聞き手側のほうが、話し手側から発信される情報について、より認識が少なくなるという結果が得られています。

このことから、CMCでは受信者側が発信者の感情を実際より小さく見積もってしまう場合に、発信者側から見て「受信者はどうしてわかってくれないのか?」という疑念が発生している可能性が考えられます。同時に、それに気づかない受信者側には「なぜあんなに興奮するのか?」というすれ違いに繋がっている可能性があると指摘しています。

研究まとめ

・CMCでは発信される情報が少なくなったと認識されているのと同時に、感情情報の伝達度合いも少なくなっている⇨情報の濾過機能が働いている。情報の濾過機能は、対面しないことにより非言語情報の伝達度合いが損なわれやすくなる現象。通常の対面場面で行われているコミュニケーションよりも記憶や感情、思考などの情報伝達が欠落しやすくなると言われている

・CMCでは感情情報の伝達においても、特に聞き手側に対しては情報の濾過機能が働き、聞き手側の感情伝達度合いに対する認識が少なくなったと考えられる

・この実験の被験者がCMC条件だからという理由で感情の伝達について情報の濾過機能を前提とした認識を持っていると、発信者側との情報伝達の誤差がより大きくなってしまうことが考えられる。


 

インターネット・コミュニケーションは、メールやチャットからLINEをはじめとしたメッセージアプリやtwitterなど、より手軽な形に変遷してきました。上記2つの関連研究からも、ツールの変化に伴い情報の伝達感・伝達度、感情の伝達感・伝達度が少しずつ変化している様子が窺えます。

しかし感情の伝達感・伝達度に関する話し手側・聞き手側の溝は、傾向として大きく変化したわけではありません。

対面や電話の方が意図した通りの感情を相手に伝達できる可能性はありますが、正確に伝達することを前提とした対面を相手に求めてしまうと「直接言えば何とかなる」状況を作り出そうとしている意図まで相手には伝わっているのかもしれません。

 

FTF、CMCのどちらが優れているか劣っているかという解釈を一括りにせずに、やりとりを通して最終的に相手に何を伝えたいか、「道具的情報」なのか「感情的情報」なのか判断できる視点が大切です。伝えたい情報によってコミュニケーションの手法を使い分けるスキルを身につけることが、今後より円滑なコミュニケーションを育むために重要な課題だと考えます。